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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)213号 判決 1949年3月23日

主文

原判決を破毀する。

被告人を懲役三年に處する。

第一審に於ける未決勾留日數中一五〇日を右本刑に算入する。

訴訟費用は全部被告人の負擔とする。

理由

辯護人菊地養之輔及同八島喜久夫の上告趣意は末尾添付の書面記載の通りである。

同第一點について。

論旨は要するに、被告人が、昭和二一年二月二三日朝證據上認めることのできる時刻に埼玉縣入間郡福岡村なる渡辺トキ方を出発した場合、同日の東武鉄道株式會社東上線、上福岡驛と省線上野驛間の電車の運行状況及び上野驛における混雜せる乘車事情から考えて、同日午前一一時二五分上野驛発常盤線回り仙臺行き汽車に乘車することは絶對に不可能であったから、被告人は同日夜迄に仙臺市に到着している筈がなく、原判決が判示四乃至九において被告人が同日午後一一時一〇分頃から翌二四日午前二時頃迄の間に、仙臺市内において前後六回に亘り、強盗及び同未遂の犯行に及んだ旨を認定しているのは、実驗則に反すると云うのである。

記録について調査すると、被告人が前記渡辺トキ方を出発した時刻については、被告人は、原審第一回公判廷において同日午前九時前後第一審第一回公判調書の記載によれば午前八時半頃、被告人に對する豫審第三回訊問調書の記載によれば午前九時一寸前頃と述べていて、證人渡辺トキは、第一審における證人訊問調書の記載によれば午前八時頃、豫審における證人訊問調書の記載によれば午前九時頃と述べていること明らかである。また、第一審における、證人宮島三五郎に對する訊問調書の記載によれば、同日右時刻頃東上線上福岡驛を発車した池袋驛行の電車は、午前九時二五分上福岡発(時間表上は九時五分発であるが二〇分遲延)同一〇時二分池袋着(時間表上は九時四二分着)、及び同一〇時一三分上福岡発(時間表上は一〇時五分発)同一〇時五〇分池袋着(時間表上は一〇時四二分着の二両があり、これら電車に乘って池袋驛に來た者が同驛から省線電車で最短距離を通って上野驛に向ったとすれば通常の状態では前の電車に乘った者は同一〇時二八分に後の電車に乘った者は同一一時一六分に、上野驛に到着することができること明らかである。したがって被告人が渡辺トキ方を出発した時刻について、被告人及び渡辺トキの前記の供述のいづれを採用するとしても右東上線の電車のうちいづれかに乘車し、少くとも同日午前一一時二五分上野驛発常磐線回り仙臺行き列車の発車前に、上野驛に到着することができたこと明白である。もっとも、第一審における證人高橋龜吉に對する訊問調書の記載によれば、右列車発車後に上野驛を出発して、同日中に仙臺驛に到着することのできる汽車の便はなっかたこと、及び原審における同證人に對する訊問調書の記載によれば、右列車に乘車するにはその當時上野驛で行われていた、乘客が驛に到着した順に改札口前に行列して改札を待つ正規の乘車方法によれば、発車前五、六時間前から改札を待ち合せなければ乘車困難であったことを認めることができるけれども、それは通常の乘車方法による場合のことで、右原審における同證人に對する訊問調書中にも、右列車に乘車する爲めに発車前どの位前に驛に到着していなければならなかったかは、一概に云うことのできないことであって、敏捷な人であれば発車間際に來ても乘る人があり、相當早くから來ていても乘れなかった人もあるとの記載があり、また當時同驛からの汽車の乘客は前記のような正規の乘車方法によるのでなければ乘車できなかったのではなく、遲れて驛に到着した者が、右正規の方法をくぐり、先に到着した他の乘客より先んじて乘車する各種の不正な乘車方法のあったことは公知の事実であって、このような方法によれば、被告人が前記の時刻に上野驛に到着することができる以上一一時二五分発の仙臺行きの右列車に乘車することも、不可能と云うことはできない。しかして右列車に乘車すれば、被告人は、本件四の犯行の時刻前である同日午後九時頃、仙臺市に到着することができたことは、第一審における同證人に對する訊問調書の記載に徴して明瞭である。原判決は、被告人が同日(二月二三日)歸宅の途につき、仙臺市に來て仙臺驛で汽車を降りた後、同日午後一一時一〇分頃から翌二四日午前二時頃の間に、原判示四乃至九の犯行をした旨を認定していて、原判決の掲ぐる證據を綜合すれば右の認定に実驗則に反する點も見當らない。論旨は結局原審の専權に屬する事実の認定を非難するに歸し、上告適法の理由とならない。

同第二點について。

原判決がその主文において、被告人を懲役三年六月に處しながら、その理由において、被告人を懲役三年に處するを相當とする旨判示していること所論の通りである。この點において、原判決はその主文と理由との間に齟齬ある違法があるので論旨は理由がある。よって刑事訴訟法第四四七條に則り原判決を破毀する。しかして同法第四四八條は右法條の規定に依り原判決を破毀する場合、原判決の違法が事実の確定に影響を及ぼさないときは、原判決の證據によって確定した事実を基礎とし記録についての書面上の審理を加味して、當裁判所が被告事件について、自ら刑を量定して判決することができることとした規定であると解すべきであって、本件はまさに同條に該當する場合であるから、當裁判所自ら判決することとする。

よって、原判決が證據により確定した事実につき、その適示した各法條を適用し、なほ、これと同様の心神耗弱による法律上の減輕をした上その刑期範圍内で被告人を懲役三年に處し刑法第二一條に從い第一審に於ける未決勾留日數中一五〇日を本刑に算入し訴訟費用は刑訴第二三七條第一項に則り全部被告人に負擔さすべきである

因て主文の通り判決する。

本判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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